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沖縄の若者たち、10年の記録!

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 本学南島文化研究所・研究支援助手の打越正行さんが、10年にわたり行ってきた「沖縄の暴走族、ヤンキーの若者たち」についての調査研究を著書として発行し、大変好評を博しています。本学での研究支援助手としての業務の傍ら、社会学者としての自身の調査研究もコツコツと積み重ねてきた打越さんに、調査を始めたきっかけや、調査内容に関するお話などいろいろとインタビューしました。



・沖縄の暴走族やヤンキーの若者たちについての調査ということですが、きっかけはどのようなものだったのでしょうか?

私は、十代のころは教師になりたいと思っていました。大学生だった頃、ある夜に、ひょんなことから高校生ぐらいのヤンキーの若者たちの集いの場に加わり、話を聞く機会がありました。彼らはみな口々に学校への不満をもらしていました。私にとって学校は楽しい場所でした。しかし、彼らは学校に行くことと学校を辞めて働くことを天びんにかけ、それぞれの経験をもとに冷静かつ真剣に話し合っていました。そのような視点で学校を見たことがなかったため、自らの無知を思い知らされました。また同時に、彼らのこと、学校の外で起きていることを知りたいと思うようになりました。これが大きなきっかけの一つです。

・この調査には「参与観察」という手法を用いたとのことですが、参与観察とはどのような調査なのでしょうか?

社会調査の手法には「アンケート」「インタビュー」「フィールドワーク」などいろいろありますが、この「参与観察」は、調査対象社会の一員として役割を担いながら調査をするという手法になります。彼らに対して、いきなりアンケートやインタビューを依頼することが難しかったためです。時間をかけて信頼関係を築くために、参与観察が最も適していたと思います。

・10年という調査期間も大変なものですが、年齢が一回りも下の少年たちと行動を共にするということで、ストレスや苦労などはありませんでしたか?

調査の場面において、ストレスや苦労はほとんどありませんでした。彼らと過ごす時間や、そこで経験させてもらうことはむしろ刺激的でした。彼らが自分たちで人間関係を築いていく様や、「やっけーしーじゃ(無理難題をいう先輩)」に対処する身の処し方には感心しっぱなしでした。嫌なことは断る、嫌でなければ受け入れるのが一般的なやり方ですが、先輩と後輩の間柄では先輩の機嫌を損ねるためはっきりと断ることもできないし、毎回受け入れることも要求が際限なくなるのでまずいわけです。そこで後輩たちは、先輩を刺激せずに断るちょうどいいところに落とし込んでいました。このような場面に遭遇することは、とても貴重な経験でした。

・若者たちが直面する過酷な現状を、沖縄の社会にも触れながら書かれていましたが、この調査を通してどのようなことを最も強く感じましたか?

彼らは厳しい上下関係やそれに基づく暴力をふるわれ、またふるうことがありますが、それらは本土の大手ゼネコンによる収奪の歴史などによりできあがった沖縄の社会構造(産業構造)に要因の一つがあるとみています。沖縄では、製造業がすっぽり抜け落ちています。彼らの多くが携わっている建設業は、製造業と異なりステップアップする機会が乏しく、将来展望をもって働くことが困難です。このような状況の中で、彼らが仕事を得る、または続けていくために、少年時代から続く強烈な上下関係に縛られ続けることになっています。ただ、沖縄で建設業界の脆弱性が表れだすのは「復帰」以降の話で、そこでこのような上下関係もつくられたとみています。

・どのような方に読んで頂きたいですか?また、最後に何か伝えたいメッセージなどありましたら教えて下さい。

沖縄のことを本土の人に知って考えてもらいたい。このような若者たちが懸命に生きているということを具体的に理解してもらいたいという気持ちで本を書きました。それから、この場をおかりして本学への感謝について述べさせて頂きたいと思います。本学では研究支援助手として勤務しております。就業時間中は大学の業務を行っており、また就業時間後などに調査研究の時間を確保できています。仕事と調査研究のワークライフバランスのとれた就労環境です。そのおかげで、多くの時間を要する参与観察調査を継続することができています。若手の研究者の環境はどこも厳しく、参与観察をしていた若手研究者が、その手法を途中でインタビューなどに切り替えざるをえない現状にあります。そんななか、一つの区切りとなるところまで調査に打ち込めたことには本当に感謝しています。今後も彼らが付き合ってくれる限り、20年、30年と彼らの人生を追いかけていきたいと思っています。


打越正行(うちこし まさゆき)
沖縄国際大学南島文化研究所 研究支援助手
広島県出身
琉球大学教育学部を卒業後、広島に戻り修士号を取得。
その後は首都大学東京にて博士号を取得。専門は社会学。
2019年3月、博士論文を一般書として書き直した
『ヤンキーと地元――解体屋、風俗経営者、ヤミ業者になった沖縄の若者たち』を発行。