1.成果本シンポジウムの成果の第1点は、「本学卒業生の現職教員による実践報告」が実現したことである。このことは、とくに、参加者の大部分を占めた本学在学生にとって、次の3点の効果をもたらしたと思われる
- 具体的かつ身近な目標としての卒業生現職教員の存在の認識
- 学校現場での、実際の授業構成や実践の把握
- 次年度の模擬授業実践や教育実習へ向けての意識の高揚
成果の第2点は、中学社会科ゼミ在学生による報告実施がもたらした効果である。具体的には、次の3点が挙げられる。
- ゼミ生自身が自らの模擬授業実践を振り返ることで、自分たちの取り組みを客観的に把握し、その長所・欠点を再認識することができた。また、現職教員を含む大勢の前で報告するための準備を通して、他人に情報をわかりやすく伝達することの訓練となった。
- シンポジウムに参加した卒業生や学外からの参加者が、現役ゼミ生の模擬授業実践の報告を聞き、展示された教具や指導案を見ることで、教材開発をはじめとする授業への取り組みに対して大きな刺激を受けていた。
- 本学教職課程における中学校社会科以外のゼミ(高校地歴、高校公民)に所属する学生が報告を聞いて、中学校社会科ゼミの取り組みの具体的内容を知り、自らのゼミでの取り組みを改善しようと啓発されただけでなく、高校ゼミにおける同種の企画実施を望むようになった。
こうしたことから、本シンポジウムは、中学校社会科ゼミだけでなく、本学教職課程で学んでいる多くの学生たち、並びに本学卒業の現職教員の資質向上に寄与したものと考えられ、このことは沖縄県の社会科教育の将来的な向上につながるものと期待できる。
他方、アンケートによれば、シンポジウムに対する満足度は「大変良かった」、「良かった」をあわせて90%にものぼり、また「今後も継続するべきである」との意見も90%を越えているため、全体的には成功だったと評価して良いだろう。上記の数字に込められた期待に鑑み、次年度以降も同種のシンポジウムを継続していきたいと考えている。
2.課題(1)報告内容の調整不足
今回のシンポジウムは、「沖縄県における中学校社会科教育の可能性」と題したにもかかわらず、「沖縄県」でこそ実現可能な社会科教育実践について、議論が深まらなかった。この点は、アンケートでも指摘されており、今後大いに検討すべき課題である。
(2)双方向性の不十分さ
今回のシンポジウムでは、卒業生の現職教員と教職課程在学中の現役学生とが、双方向で対話することで、「沖縄県における中学校社会科教育の可能性」を模索することを企図していた。しかし、質疑応答の時間が短かったこと、パネルディスカッションを質問票形式にしたために報告者からの一方的な回答に終わってしまったこと等、運営上の改善点が残された。
(3)広報の検討
アンケートによれば、大学HPで本シンポジウムを知った人はいない一方、「誘われた」や「新聞記事」が意外に多かった。こうしたことから、次回開催に際しては周知方法の効果的なあり方を検討し、とくに卒業生現職教員の参加者数を増やす努力が必要だと思われる。
(4)ゼミ教育との有機的な連関
今後の企画として一番要望が多かったのが、卒業生現職教員による模擬授業の実施あるいは現役学生の実施する模擬授業に対する講評だった。こうした内容は、正課のカリキュラムである教科教育法演習と密接に関連するものである。他方で、今回のシンポジウムを単なるイベントとして終わらせるのではなく、新年度のゼミ教育でどのように反映させるかという課題もある。いずれにせよ、シンポジウムと正課教育との有機的な連関を検討する必要があるだろう。