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日本文化学科のブログ

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【安先生の著書が出版されました】

先生も頑張ってます


【安先生の著書が出版されました!!】
 多文化間コミュニケーションコース担当の安志那先生の著書が出版されました。ウェブ小説、その中でも「ロマンスファンタジー」について考察した本です。韓国語での出版ですが、韓国語を学んでいる人は、是非チャレンジしてみてください。安先生からのメッセージも届いています。
 以下、安先生からのメッセージです。


安志那『ある日、ロマンスファンタジーを読み始める』(2021、イウム出版)

 皆さん、ウェブ小説という言葉を聞いたことがありますか?
伝統的な紙媒体ではなく、ウェブやアプリなど通信媒体に掲載されることを前提として書かれ、発表される小説をウェブ小説といいます。日本でもネット小説、オンライン小説と呼ばれ、人気を集めていますね。
韓国においては、急速なデジタル化とスマートフォンの普及によって読者層の拡大やジャンルの多様化とともに活発に創作が行われ、コンテンツ産業としても目覚ましい発展を成し遂げています。2020年における韓国のウェブ小説市場は約600億円規模にまで成長しました。2013年の10億円規模だったことを考えれば、7年の間約60倍まで成長したことになります。
 この本は、ウェブ小説の中でも女性向けジャンルである「ロマンスファンタジー」に注目し、ジェンダーの視座からウェブ小説を考察したもので、物語論でもあり批評書ともいえるものです。
ロマンスファンタジーとは、主に西洋の中世から近代までの西洋のイメージをモチーフに、剣や魔法などファンタジー要素を取り入れ、主に貴族の令嬢である女性主人公の恋愛や貴族社会・宮廷での争い、冒険などを描くジャンルを総称します。作家も読者もほとんど女性の、女性のための「異世界」モノともいえます。韓国における男性向けのウェブ小説は、主にオンラインゲームの世界観を背景にするものが人気なのとは好対照といえるでしょう。
異世界転生や転移した現代の人物が主人公である場合が多いのは日本と同じですが、様々なバリエーションがあらわれています。
 たとえば、ロマンスファンタジーというジャンルに一躍ブームを巻き起こした『捨てられた皇妃』(2014)という代表作があります。日本でもウェブトゥーンが翻訳されています。
この作品のヒロインは、幼い頃から立派な皇后になろうと必死に努力しましたが、現代から転移してきた運命の恋人と出会った夫(皇帝)から虐待され、家族を殺され、最後には処刑されます。しかし、再び目覚めた彼女は自分が幼い頃に戻っていることに気づきます。彼女は前世のように立派な皇后になるためではなく、自分らしい生き方を選択すると決意します。
 この物語は、言わば既存のロマンスを書き直したものです。物語の主人公に運命の恋人が現れた時、選ばれない婚約者はどうなるのでしょうか。王子様に選ばれるためだけに一生懸命教養や国政に役立つ知識を身に着け、社会において望ましいとされる理想の淑女・妃になったのに、「恋」のためにその努力が実らず、尊厳までもが踏みにじられる。ただ、物語のヒロインとして選ばれなかったために。これは、既存のロマンスが顧みなかった視座から新しい物語が生まれてきていることを示しています。
 本書には上記の作品をはじめ、2014年から2021年までに出版されたロマンスファンタジーの代表作25種を取り上げています。日本語に翻訳されていませんが、韓国語が読める人はぜひチャレンジしてみてくださいね。万華鏡のような世界を覗けるかもしれません。