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日本文化学科のブログ

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【連載:研究室に行ってみよう③ 文学・創作研究室へようこそーー村上陽子先生】

研究室・ゼミナール紹介
日本文化学科には専任教員12名ごとに研究室が設けられています。日文生は3年生になるとそれぞれの研究室に所属して卒業研究・卒業制作を進めていきます。各研究室ではどんな研究ができるでしょうか? ゼミ担当の先生に、受験生向けに語ってもらいましたのでご紹介します。
今回は文学担当の村上陽子先生の登場です。


◎大学で「文学を学ぶ」ってどんなこと?  
 受験生の皆さんの多くは、大学では高校までと全く違う新しいことを勉強したい、と思っているのではないでしょうか。私の研究室では「文学」を専門的に学んでいるのですが、「小説だったら国語の授業でこれまで読んできたし…」と思う人もいるんじゃないでしょうか。
 でも文学を学ぶというのは高校までの国語の授業でやることとはかなり違うんです。高校までの小説教材の読み方は、たぶん作者の意図や主人公の思いを探ることが多かったと思いますが、大学での文学の読みはそうではありません。一言で言うと、読み手が自由に、自在に読みを施すことができるのが、大学での文学研究の楽しさなんですね。つまり、読者ごとに多様な解釈があってもいいし、その解釈は作者が意図していないことでも、論理的に成立すれば「アリ」になるんです。
 
 私の研究室では、ゼミ生がそれぞれ「私はこう解釈する」ということを語り合い、議論しながら、そのテクストの魅力をどんどん深く掘り下げていく、言ってしまえば、思いっきり深読みしながら文学を楽しんでいます。
 高校で夏目漱石の「こころ」という小説を読んだ人も多いですよね。高校で取り上げられるのはこのテクストの一部分だけですが、全体を通して読むといろんなものが見えてきます。
 たとえば、先生と主人公の大学生の関係性は、非常にBL(ボーイズラブ)的だと分析する研究者もいるんです。先生と大学生が夏の海辺で出会い、メガネをひろったことがきっかけで親しくなって…というBL的要素も続々登場します。そんなふうに読んでいくと、先生と「K」の関係も気になってきますね。「そんな読み方していいの?」と言われたりもしますが、もちろんOKです。このあたりが大学での文学研究の面白さです。

◎文学から歴史、社会、心理を理解する  
 文学研究が社会に出てから役に立つの? と疑問に思う人もいるかもしれません。小説は確かにフィクション、作り話です。しかし、フィクションでしか伝えられない「真実」というものもあります。
 例えば、歴史学は「戦争」について研究したりしますが、あやふやなことは「史実」としては学問上記録できない制約があります。文学はそうではありません。その戦争を体験した、その時代に生きた一人一人に注目し、史実では取り上げられにくい、あやふやな出来事、感情を個人の視点からつかみ取ってくることができます。
 沖縄出身の小説家・目取真俊の「水滴」という作品では、沖縄戦の語り部でもあった主人公がどうしても人に語ることのできなかった記憶―自分が戦友を見捨てて逃げたという事実―が注目されています。語れなかった事実は証言にも記録にも残りませんが、小説では戦友たちの幽霊に直面することでその記憶があふれ出し、読者に「史実」からこぼれおちるものを教えてくれます。

 こんなふうに考えていくと、文学はいろいろな学問に結びつきます。心理学、歴史学、社会学、哲学… 多様な知識が文学研究を通して身につきます。いろいろなことを勉強したい、と悩んでなかなか進路を絞れない人ほど、文学を入口にして多様な学問に触れられる日本文化学科をお勧めしたいですね、と言っちゃうと、なんだか宣伝っぽいですね。(笑)

◎受験生のみなさんへのメッセージ  
 文学ゼミでは、夏目漱石や太宰治などの昔の文学作品だけを研究対象にしているわけではありません。もちろん、いろいろな読みが重ねられてきた作品ほど深みのある研究ができますが、有川浩さんの『図書館戦争』や、上橋菜穂子さんのファンタジーなども、最近の文学研究者が取り上げるようになってきていて、面白い卒論が書けると思います。本を読むのが好きな人は文学ゼミで一緒に勉強しましょう。

 それと、読むだけでなく、「書くのが好き」という人もぜひ文学を学んでほしいです。人間は自分が見たり聞いたりしたもの以上のものはなかなか作れません。小説を書いている人、詩を書いている人が、文学に触れ、多様な読みの世界を体験することで、その作品はもっと大きく豊かなものになっていくはずです。