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日本文化学科のブログ

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【連載:研究室に行ってみよう④ 比較文化・対照言語学研究室ーー兼本敏先生インタビュー】

研究室・ゼミナール紹介
日本文化学科には12名の専任教員が在籍しています。
兼本敏先生は中国語・中国文化の専門家で、研究室には多文化間コミュニケーションコースの学生が多く在籍していてます。
研究室のテーマは「比較文化研究」「対照言語学」。
兼本先生の研究室にお邪魔して、ゼミ生たちが卒業研究として取り組んでいるテーマやゼミの特徴などを紹介してもらいました。


◎比較文化研究はおもしろい!
――「比較文化」というのはどういう学問なのですか?
兼本先生 海外の文化と日本の文化を比較するという研究です。たとえば、「トラ(虎)のイメージ」をテーマに選んだ学生の卒論では、トラが生息する国と生息しない国では、物語やことわざなどの中での扱われ方がかなり違うのではないか?、という仮説を立てて調査をしてみました。カンボジアなどのトラが生息するところでは、トラは怖い生き物で、ポジティブなイメージでは扱われません。でも、日本をはじめとして、もともとトラが生息しないところでは、ポジティブなイメージで扱われることが多いんです。
「俗説」を疑ってかかると意外な発見もたくさんあります。たとえば、挨拶をするときに、「お辞儀」をするのは日本独自の文化で、ヨーロッパにはない、という話を聞いたことはない?

―― あ、聞いたことがあります。ヨーロッパは挨拶の時に握手をするんですよね。
兼本先生 そうそう。でも、ヨーロッパに本当にお辞儀する文化がないかというとそういうわけじゃなくて、例えば、騎士が戦うときにはお互いにお辞儀をするんだよね。あとは「正座」。これも日本文化だと言われているけど、ヨーロッパにもちゃんとあります。昔の絵画をみると分かるけど、キリスト教、カトリックのお祈りをするときはひざまずくから、ほとんど正座のようなことをやっているんだよね。こんなふうに比較文化の研究では、相違点だけじゃなくて、意外な共通点も発見できるんです。

―― なるほどです。先生のゼミで勉強(比較)できる文化圏はアジアやヨーロッパだけなんですか?
兼本先生 沖縄はアメリカの文化の影響を受けていると言われているから、アメリカ文化も大事な比較材料です。それと、沖縄と日本も比較してみるとなかなか面白いですよ。たとえば、「うちなータイム」というのがあるでしょ?
いかにも沖縄特有の、のんびりした県民性を表しているように言われているけど、昔の日本の文献を調べていくと、本土の人たちもそんなに時間をしっかり守っていたわけじゃないことが分かってきます。
じゃぁ、なぜ沖縄だけが時間にルーズなのか。いろいろな説が指摘されていますが、1つは電車が交通手段として定着しているか、していないか。本土では電車が多く使われるようになってから1分1秒単位で時間を捉えるようになった、とも考えられています。沖縄も、モノレールがこれからどんどん伸びていくから、うちなータイム、というのはだんだん無くなっていくかもしれませんね。

◎対照言語学ってなんだろう?
―― 先生のゼミでは「対照言語学」という研究もできるんですよね? どんな研究ができるんですか?
兼本先生 対照言語学というのは日本語と海外の言語を比較する学問のことです。例えば、その1つに「言語接触」という研究ジャンルがあって、ある言語とある言語が出会って、どんな変化を遂げたのか、ということを解明していく研究があります。日本語で物を数える時、「1つ、2つ…」と数えると思うけど、もう1つ数え方があるでしょ?

―― なんだろう。1つ…1個、2個ですか?
兼本先生 そう。同じことを言うのに、「つ」と「個」という、2つの言い方があるっておかしくないでしょうか?
実はこれも言語接触の例の一つで、中国語の「個」が日本に入ってきて広がっていったと考えられているんです。ついでに言うと、「つ」という数え方は「九つ」までしか数えられないでしょ。日本はそもそも「ものを数える文化」があまりなくて、「数詞」が発達しなかったという説もあります。

―― 「数え方」だけでこんなにいろんな文化の違いが分かるんですね。面白いです。
兼本先生 海外の言語と比べると、日本語の独自の不思議さも特徴として浮かび上がってきます。日本語は人や動物などの生き物の動作を示す言葉と、それ以外の動作を示す言葉が違っていることが多いんです。たとえば、「テーブルの上に猫がいます」とは言いますが、「テーブルの上に猫があります」とは言いませんよね?
反対に、「テーブルの上にペンがあります」とは言いますが、「ペンがいます」とは言いません。海外の言語ではこんなに明確に区別することはないんですね。

―― あ、でも「テーブルの上に花があります」とは言いますよね? 花は生き物ではないんですか?
兼本先生 そこが対照言語学の面白いところです。言語にはその国の人の価値観や自然観が現れています。恐らく日本人は動物は自分たちと同じカテゴリとみているけど、植物は同じカテゴリとは見ていないのでしょう。
さらに面白いのは、ちょっとかわいそうだけど、、テーブルの上に「いた」猫が死んでしまったらどうなるかな?

ーー あ! 猫の死体が「いる」、じゃなくて「ある」になりますね!
兼本先生 そうなんです。命が失われると「いる」から「ある」に変化してしまいます。言語は人間の生活の基本なので、言語の不思議な点を考えていくと、その国の文化のいろいろなことが分かってきます。

◎3年生になったら海外文化体験実習(多文化体験実習)も!
―― 日本文化学科では3年生以上が後期から受講できるアドバンスト科目というのがあるんですよね。海外文化体験実習(多文化体験実習)にすごく興味があります。
兼本先生 私のゼミは日本、沖縄、海外を広く学ぶゼミなので、昨年、海外文化に触れる研修プログラムの一環としてこの授業を利用しました。
プログラム、と言っても、私が準備するのではなく、企画、チケットやホテルの手配、当日の日程なども含めて、ゼミ生がすべて調べて運営します。
研修のテーマは「いかに安く、楽しく、海外に行けるか」です。これまで台湾や韓国へ5泊で4万円くらいで行ってきました。ホテルも相部屋だったり、移動は徒歩が多かったりして大変な研修旅行ですが、本当の意味での「国際交流」「海外体験」ができていると思います。

ーー 本日はどうもありがとうございました。言語は文化の基本。ことばから沖縄、日本、世界を見つめる。日本文化学科で言語学を学ぶということがどういうことか、イメージがすごく広がりました!

※写真は昨年の絵画異文化体験実習で台湾に行ったときのものです。