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日本文化学科のブログ

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【連載:研究室に行ってみよう⑥ 沖縄の方言を学ぶ琉球語学・琉球文学研究室ー西岡敏先生インタビュー】

研究室・ゼミナール紹介
日本文化学科の12人の先生の研究室を訪問して、先生の専門分野のこと、ゼミの活動のことなどを教えてもらう連載第6弾。
今回は西岡敏先生の研究室を訪問して、琉球語や琉球文学の魅力、ゼミの様子などを聞いてきました。
AO入試の面接も近づいてきました。琉球文化コースに関心のある受験生のみなさんはぜひ参考にしてくださいね。


ーーー(コンコン) 先生、こんにちは。西岡先生は本土出身(奈良県出身)なのに、なぜ琉球語の研究をしようと思ったのですか?

西岡先生: 私は大学生になるまで、沖縄で話されている言葉のイメージが全くありませんでした。私の出身は奈良県なのですが、中学校の社会の時間に、先生から沖縄戦で住民が沖縄の方言を話してスパイの容疑で殺されたという話を聞いたことがあります。そのときにはひどいことだなあとは思ったのですが、実際にどんな「方言」なのかというところまでは全然意識していなかったのです。
 自分も奈良出身ですから、標準語とは少しちがう「方言」を話しているわけで、おそらくその程度の認識しかなかったのですよね。ところが、東京の大学で、私は外国文学にあこがれて、言語学を専攻したのですが、ちょうど二十歳のとき、沖縄から琉球語の専門の先生がいらっしゃって、その「方言」の実相を話してくださり、それはもう衝撃を受けました。

ーーーー「衝撃」ですか?
西岡先生: はい。まず、実際に聞いて全くわからないということが衝撃でした。この言葉は「方言」でよいのだろうか、という、今でも考えなければならない問題とも向き合うことになりました。それから、「沖縄」の言葉といっても、一つの言葉ではなく、島々において異なる多様な言葉が話されているということも、そのとき初めて知りました。また、ちょうど同じ時期に、全編沖縄語映画の「ウンタマギルー」(高嶺剛監督)を見たことも忘れられません。映画自体もすばらしいのですが、全編沖縄語で、字幕を見ないと意味が分からないことにも衝撃を受け、やはり「方言」って何だろうということも再認識させてくれました。その映画は、「沖縄芝居」という沖縄の伝統的な方言による演劇を下地にしているんですよ。「ウンタマギルー」(運玉義留)というのは、「沖縄芝居」に出てくる主人公の名前で、義賊なんです。本土でいうと「鼠小僧」のような存在。ですから、沖縄の「方言」には、豊かな芸能・演劇の世界が広がっていることも、そのとき感じました。

ーーー西岡先生のゼミでは、具体的にはどんな研究をしているんですか?
西岡先生: ここ最近のゼミでは、「沖縄芝居」の台本や映像を見て、その「方言」(沖縄語)を書き起こす作業をしています。最近は昔に比べて若い人たちが「方言」と接触する機会も少なくなってきているので、まずは「方言」に触れることが大切だと思い、取り組んでもらっています。ただ単に書き起こすだけではなく、音韻記号を付けたり品詞分解をしたりするなど、研究を意識した書き起こし作業を行っています。「沖縄芝居」は、「泊阿嘉」「伊江島ハンドー小(グヮー)」のような有名な歌劇を取り上げたり、「仲直り三良小(サンラーグヮー)」「豊年」といった割合に短いものも取り上げたりしてきました。今年は、三大悲歌劇の一つ「奥山の牡丹」を取り上げて、その「方言」を分析・考察を進めています。私自身、ネイティブスピーカーではないので、分からない言葉が色々と出てくるのですが、辞典を引いたり方言話者に聞いたりして分かったときは嬉しさもひとしおです。卒業論文では、すべての学生が、「琉球方言」のことをはじめ、琉球の芸能や文化に関わるものをテーマにして執筆しています。琉球文化についてもっとも知りたい、琉球文化の継承に関心があるという学生さんにぜひ来てもらって、西岡ゼミを盛り上げていってほしいですね。

ーーー西岡先生のゼミでは方言調査のフィールドワークなどもあるんですよね?
西岡先生: はい、昨年のゼミでは、伊是名島に方言調査に行って言葉の記録ができました。今年は、与論島に行って地元の方言復興の取り組みを取材する予定です。また、最近のゼミの取り組みとして、地元の福祉施設との交流があり、そこで「方言」による人形芝居、獅子舞や三線などを演じることもあります。ゼミ生の中には、芸能に長けている人がいて、それをお年寄りの方々に披露することもあります。かつて演じた「方言」(沖縄語)による「人形芝居」は、ゼミ学生のオリジナルのストーリーで、ゼミの時間の中で「方言」(沖縄語)に翻訳し、「人形芝居」の台本に仕立て上げました。こうした取り組みもぜひ続けてほしいですね。

※写真は沖縄県北部の福祉施設で獅子舞と「沖縄語人形芝居」を行ったときの記念撮影。ゼミ合宿を利用して伊是名への方言調査も行っています。